病室で作った16個のもの全部
2021年の前半は重めの病気を患い、4ヶ月の闘病生活を送っていました。治療に苦しみながらも、少しでも楽になるためのものや単純に興味本位のものを沢山開発しました。今週から(多分)一旦仕事に戻れることになったので、作ったものを全部記録します。
- 1. 点滴したまま着脱できる上着
- 2. 虚構じゃないbot
- 3. 寝ると止まるpodcast
- 4. COCOA再起動アプリ
- 5. brbrBeat(ぶるぶるビート)
- 6. OpenKen
- 7. 寝てる人の割合分析
- 8. Stick Figure Recorder / 棒人間メイカー
- 9. 段階的に難易度を変えられる時計
- 10. みんなの忘れたニュース(再)
- 11. 富士山が見える建物マップ
- 12. 絶対右折したくない検索
- 13. ARタイムラプス
- 14. 東京断面テープ
- 15. 空を絵画に持ってくる
- 16. 自分がいつ呼ばれるか予測するページ
- おしまい
1. 点滴したまま着脱できる上着
健康だった頃は考えたことも無かったのですが、点滴をつけたままだと上着を着脱できないんですよね。抗癌剤治療は朝9時から深夜2時まで点滴が刺しっぱなしだったので、気軽に温度調整ができなくて困りました。そこで、袖を面ファスナーで開閉できるようにすることで、点滴をしたままでも着脱できる上着を作ってみました。
点滴つけたままだとセーターを脱着できない(袖に腕を通せない)のが辛くて、点滴つけたままでも着れる上着の設計図を描いた。そしたら妻と母が半日でユニクロの上着を改造してくれた。めっちゃいいよこれ、市販して!(調べたら似た構造のパジャマは見つけたけど上着は見当たらない。) pic.twitter.com/crTQXuID6d
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年1月17日
入院中はずっと助かっていました。ユニクロとか作ってくれないかなー。
2. 虚構じゃないbot
最近虚構新聞かと思うような現実のニュースが増えてきたような気がします。そこでTwitterや、はてなブックマークで「虚構新聞かと思った」のようなコメントが沢山ついたニュース記事を自動的にピックアップして紹介するbotを作ってみました。
虚構新聞好きなんだけど最近現実の虚構ぶりのほうが凄いので、「虚構新聞かと思った!」みたいなコメントがついているニュースを自動的にピックアップして紹介するBotを作りました。眺めるだけで面白いです。 https://t.co/nz6NLF8hTW
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年2月7日
運用して3ヶ月、話題になった虚構っぽいニュースを的確に拾ってくれて、割と人気アカウントになっています:
ただどうしてもコロナ関係の少し暗いニュースが多くなるので、もっと幅広く拾えるようになるといいですね。
3. 寝ると止まるpodcast
病室で本を読むのも辛い時は大体podcastを聞いてたんですが、寝落ちすると次回巻き戻すのが面倒臭い問題に悩まされていました。そこで、Fitbitが睡眠を検知したら自動的にスマホの再生を止めるアプリを作ってみました。
最近podcastを聞きながら寝るんだけど、いつも寝落ちしてどこまで聴いたかわからなくなるのでFitbitで睡眠を検知したらスマホの音楽/podcastを全部止めるアプリ作ってみた。今晩が楽しみだ。 https://t.co/DNAztHHOos
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年2月16日
使ってみると:
- 睡眠が誤検知されて起きてるのに止まってしまわないか不安になり、余計に動いてしまう(ので寝られない)
- いつ止まるかドキドキしているせいで寝られない
- 寝る直前に聞いてたことをあまり覚えてないので、結局10分ほど巻き戻すことになる
- でも朝起きてちゃんと止まってると嬉しい
という感じで、まだ実運用に耐えるには改善が必要そうです。そのうちリリースしたいと思います。
4. COCOA再起動アプリ
COCOAを毎日再起動させるだけのアプリです。朝のニュースでAndroid版COCOAは一日一回再起動が必要という(ひどい)ニュースを聞き、数時間で作りました。(最近のCOCOAは再起動しなくても良くなったそうです。)
任意のアプリを毎日再起動させる「毎日再起動」をリリース🚀しました。こちらからインストールできます: https://t.co/KTMDfXDHka
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年2月22日
厚生労働省いわく「COCOAを毎日再起動して」とのことですので、手動でそんなことやってられない方は是非ご利用ください。 https://t.co/KRO3RIS0At
厚生労働省のマークと再起動のアイコンをミックスさせた少し怪しいアプリアイコンにも関わらず、Playストアがちゃんと審査通してくれました。少し驚きです。
5. brbrBeat(ぶるぶるビート)
このブログを書くまですっかり忘れてた、一日で作ったSNSです。画面タップでリズムを作成・共有し、人のリズムをスマホの振動で感じて楽しむ新感覚振動投稿SNSです。「勉強が捗るリズム」とかを投稿しあったりして、スマホをブーブー言わせて感覚を楽しむ体験がしたくて作りました。朝3時のテンションで作ったら全然面白くなくて、友達と遊んだあと存在を忘れてました。たぶんリズム作成能力のある人が遊んでくれたら面白くなるんじゃないかと思います。誰かチャレンジしてみてください。
入院中に半日で作って一回遊んですっかり忘れてた新しいSNS「brbrBeat」。タップでビート(振動)を作ってシェアしたり、人のビートをフィールできる。画像・動画・音声の次の新しいメディアはこれだ!って朝3時のテンションで作ったら全然面白くなくて一人でウケてた思い出。 https://t.co/IzCRhfKlmX pic.twitter.com/LVCsi3ndhM
— 何も作らないほうのKen Kawamoto (@kenkawa_etc) 2021年5月10日
6. OpenKen
一時退院中に家族に見守ってもらえるように作った、フルオープンの生活見守りサイトです。装着したFitbitやスマホから位置情報や活動状態を収集し、リアルタイムでダッシュボードで表示します。我が家では、これを表示させたタブレットをリビングに飾っていました。
退院したとはいえ一人で出歩くと家族に心配かけるので、僕の状態(活動、心拍、位置など)がリアルタイムで見守れるOpenKenというサイトを作りました。誰にでも超openな新発想の見守りサイトなので全世界が僕を見守ればいいさ: https://t.co/bmqCIyZ40l pic.twitter.com/cOyCWfzBg2
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年3月14日
せっかくなので全世界に生活をフルに"open"にしたらなにが起きるか実験しようと思い、誰でも閲覧できるようにしてみました:
- 数週間後でも眺めてくれてる人がちらほらいました。運動してると閲覧数が上がるので、なんか面白いらしいです。
- 20人ぐらいに位置情報を見守られながら散歩すると「見られてる感」が結構強いです。必要以上に歩くの頑張ってしまいます。
- 特に危ないことは無かった。
7. 寝てる人の割合分析
祖父江慎さんの疑問「人間の一番多い%が寝ていた瞬間っていつだろう」が面白かったので、少し観点を変えて「一日のなかで一番多い%が寝ている時間」を計算してみました:
これとても面白い疑問だと思ったので、手持ちのデータで簡単に計算してみたら驚きの結果になった。ざっくり「人は現地時間の22時から6時の間寝てる」と仮定した場合、日本時間の8時に世界の86%が寝ているという結果に。逆に22時には3%しか寝ていない。極端すぎて少し計算結果に自信ない! https://t.co/O2J6d6vDBR pic.twitter.com/smzzmOr2OT
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年3月10日
日本時間6時には世界の79%が寝ている、逆に21時には世界の98%が起きているという結果に。(もとのツイートからは計算間違いや前提条件を変えているため少し値が違います。)仮定は少し乱暴(人は22時から6時まで寝る想定)ですが、そんなに大きく実情と違わないはず。ある程度偏りはあれど、人間は世界中に遍く分散しているイメージがあったので、ここまで極端な結果は意外でした。世界中の人が参加するイベントは夜9時に開催しろってことですね。
こういう、昔から存在するデータ(人口分布データ)を違った観点でみることで新しい知識を生むのはすごく楽しいですね。
8. Stick Figure Recorder / 棒人間メイカー
棒人間のgifを簡単に大量生成するために開発した、棒人間動画「録画」サイトです。
超便利なの作ってしまった。なにかと棒人間のgifが欲しいことがあるんだけど、自前でアニメーション作るのは大変。なのでウェブカメラで撮影した動画から棒人間gifを自動生成できるサイトを作った。PoseNetを使っているのでブラウザ上で動きます。遊んでみてください!: https://t.co/z6LtZbsB1P pic.twitter.com/ckPMe28URF
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年3月16日
ウェブカメラから取得した画像を骨格情報に変換し、棒人間として表示してgif化しています。GoogleのPoseNetを使うことで、完全にブラウザ内で完結させています。
作ったgifをアップできるGalleryの作品を参考に、是非自分の棒人間gifを作ってみてください。
9. 段階的に難易度を変えられる時計
時計に苦戦している子供のために作った、段階的に難易度を変えられる時計です。
子供が時計に苦戦してるので、今日は「段階的に難易度を上げていける時計」を作ってみました。最初は色がついていたり針に直接時間が書いてあったりして、難易度バーを上げていくと少しずつ視覚支援が減っていきます。時計の練習している方は使ってみてください: https://t.co/IfHR31jYAM pic.twitter.com/FGMD8ONZ64
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年3月19日
既存の練習用時計は視覚補助の種類が少なく、子供の習熟度に合わせて難しくしていけないのが不満だったため、こういうのを作りました。また、視覚補助をon/offの2値ではなく連続的に表示させることで、まるで麻の苗木を毎日飛び越えるように負担少なく次のレベルに移行できると思っています。
多分アプリにしたら売れると思ったんですが、面倒なのでソース含めオープンです。
10. みんなの忘れたニュース(再)
昔作った「みんなの忘れたニュースbot」を完全に作り直しました。色んな事情で半年ほど寝かせていたのですが、まだフォロワーが5万人以上いて再開の声が多くあったので、刷新することにしました。前バージョンの一番の不満が「何のニュースか分からない」ということだったので、一つ一つのニュースに関連ツイート含め紹介するページを自動生成し、Tweetからリンクするようにしました:
世間が [他山の石] について話さなくなって30日が経ちました。https://t.co/VxMeAVKYD6
— みんなの忘れたニュースBOT (@wasureta_news) 2021年4月25日
11. 富士山が見える建物マップ
こちらで既に解説していますが、オープンの地図データを使って、都内で富士山・東京タワー・隅田川花火が見える場所を探せる地図を作りました:
わーい隅田川花火が見える建物マップできたよ https://t.co/73LTJuLhLb pic.twitter.com/LFu3bpOzzz
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年4月2日
12. 絶対右折したくない検索
自分は完全にペーパーなのですが、どうしても運転しないといけなくなった時のために「極力右折を避ける経路を検索してくれる地図」を作ってみました:
ペーパードライバーすぎて右折が恐怖な人(自分)のために、右折をしなくていい経路を検索するナビを開発しました。「絶対右折したくない検索」https://t.co/rVoq0rsUpx ひたすら直進と左折をグルグル繰り返しながら、目的地に行ける経路を表示してくれます。 pic.twitter.com/yhht0fBkh4
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年4月13日
半分冗談で作ったページですが、実際に米国UPSは配達車の左折(日本でいう右折)を避けることで事故数や移動時間を減らしているそうです。また警察庁統計でも左折車による歩行者死亡事故の6倍の事故が右折車によって発生していることがわかっています(右折・左折件数毎のデータが無いので結論つけにくいですが。)元々僕は運転なんて殆どの人間がやるには高度・危険すぎると思っているので、自動運転が来るまでこういうハックで少しでも安全を確保するのはアリなんじゃないかと思います。
本業(Googleマップ)にだいぶ近いので危うい感じもしましたが、多分弊社が絶対に製品化しないだろうと信じて作ってみました。
13. ARタイムラプス
植物の定点観測を、固定カメラでやるのではなく、スマホカメラをARで位置合わせしてやるという実験です。
実験。毎日同じ構図で(アサガオとかの)写真を撮りたくて、ARでカメラの位置合わせができるアプリを作ってみた。昨日の撮影位置に3つの玉がAR表示されるので、それを合わせると昨日と同じ位置・角度で撮れる。ずっと固定カメラを庭に放置せずとも植物のタイムラプスが作れる、はず。 pic.twitter.com/3YcRu5aXpP
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年4月6日
まあ当然ながら固定カメラのほうが安定してますね。ちょっと実用には耐えなそう。
14. 東京断面テープ
日本語で「スカイライン」ってあまり聞き慣れないと思うのですが、観光地図とかでよく見る街のシルエットのあれです:
昔からこれが好きで、色んな角度から自動生成できたら面白いんじゃないかと思ってました。というわけで、国土交通省のオープンデータPLATEAUを使って作ってみました:
#PLATEAU のデータから東京のスカイラインを作って印刷してみたらちょっと素敵だったんだけど、こんなマスキングテープ(全長1.2m)需要あるかな。東京タワーからレインボーブリッジ周りが特にかっこいい。 https://t.co/yUCJMPE6Wd pic.twitter.com/gatiEHGGGN
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年5月1日
せっかくどんな角度でも作れるようになったので、山手線円周のスカイランをマスキングテープにしてみようかと思います。
15. 空を絵画に持ってくる
今の入院ってコロナの関係であまり病室も出られないし、来客も禁止されてるしで、代わり映えしない窓の外を眺め続けるしかありません。僕は2ヶ月間一つの部屋に居続けて、気が狂いそうになりました。そこでこうやって絵画の空を切り出して窓に貼り、実際の空を透過して見えるようにしたら空の変化に気づけて少し気が紛れるのではないかと思って作ってみました:
今日はゴールデンウイーク晴れが気持ちよすぎるので、いろんな絵画を大型連休化してみた。 pic.twitter.com/NeQI8dyTiU
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年5月3日
16. 自分がいつ呼ばれるか予測するページ
病院は待ち時間が多いですよね。殆どの時間は受付番号とのにらめっこで終わります。番号が呼ばれる早さから自分が呼ばれる時間を予測することは誰でもやると思うのですが、暇すぎてこれを半自動化してくれるページを作りました(病院で自分の番を待ちながら):
病院の呼び出し待ちの時間が暇すぎて、自分の受付番号がいつ呼ばれるか予測するページを作ったぜ。 https://t.co/yVZTbMScbl pic.twitter.com/DEGLdqNFJw
— Ken Kawamoto(ガリのほう) (@kenkawakenkenke) 2021年5月6日
おしまい
治療中(特に抗がん剤投与中)は「本業は休み」「入院中のため子育てができない」「色々新たな不都合に直面して開発のネタが出てくる」という、趣味の開発に非常に適した条件でした(治療が辛いことを除けば)。そのためこの4ヶ月間を振り返ると、治療よりも「楽しく色々作れた」という記憶のほうが強いぐらいです。この4ヶ月間楽しく開発できたのは、治療を耐えられるようにしてくれたお医者さん・看護師さんたち、家を守って色々サポートしてくれた家族、僕が作ったもので遊んで褒めてモチベーションを維持してくれた友人たちのおかげです。とりあえずは一旦生きられることになりました。ありがとうございます。